団体交渉の事前準備
団体交渉の事前準備
団体交渉の申し入れがあったら・・・?
団体交渉の申し入れはある日突然やってきます。労働者が、自分以外の者を使い、あるいは協力を得て、会社での自分の主張や要求を通すために取り得る効果的な方法は、 主に3つあります。 1つは、弁護士を使い、内容証明郵便を送付したり、労働審判や訴訟を提起する方法です。 2つ目は、労基署へ相談に行き、労基署から会社に対し、調査ないし行政指導をしてもらう方法。 そして3つ目が、合同労組へ加入し、団体交渉を申し入れる方法です。 合同労組とは、所属する職場や雇用形態に関係なく、産業別、業種別、職業別、地域別に組織する労働組合のことです。 したがって、団体交渉に参加する組合員は、あなたの会社の社員だけでなく、当該組合の組合員が複数やってきます。 組合は突然やってきて、当該従業員の加入通知と、団体交渉の申入書を置いていきます。 中には、その日その場で団体交渉の開催を要求する組合もあるようですが、即時の開催は「準備が必要だから」と言って必ず断りましょう。
団体交渉を拒否できるか
あなたの会社の従業員の雇用に関する問題で団体交渉を申し込まれた場合は、原則拒否できないとお考え下さい。 これを正当な理由なく拒否すると、不当労働行為となり違法となってしまいます。 とはいえ、申し入れがあったとおりに団体交渉を開催する必要はありません。 開催時間と開催場所については協議して決めれば良いのです。
開催場所の指定
初回の団体交渉については、会社内か、組合事務所での開催を要求してくる組合が多いですが、いずれも避けるべきです。 会社内で行えば、他の社員の目にもさらされることとなり、社内に無用な混乱なり不安がまん延することになります。 組合事務所で行うのも完全なアウェー戦となりますので好ましくありません。中には、経営者を20時間近くも事実上の軟禁状態にし、 精神的に追い詰め、有利な条件を引き出そうとする不穏当な手段を使う組合もあります。 時間と場所は、1度決めると、その後の団体交渉も引き続き同条件で行われることが多く、途中で変更することが困難となる場合もあり、 初回が肝要です。「初回は相手の言うとおりでいいか」といった安易な妥協はすべきではありません。 ではどこで開催すべきかというと、会社の近くの貸会議室が良いでしょう。公営の施設、例えば公民館などにある会議室や、 駅周辺の民間の貸会議室を探してみましょう。ちなみに費用は全額会社負担とするのが通例です。
開催日時の指定
組合によっては、団体交渉の申し入れから数日後を指定してくることもありますが、そのとおりの日時で受ける必要はありません。 会社側にも当然都合がありますし、そもそも短期間のうちに開催を求められた場合には「準備が必要」と言って、開催日を 別途指定すべきです。もっとも、いくら会社の業務が忙しいからといっても、1ヶ月以上も先延ばしにすることは、誠意ある態度とは言えず、 不当労働行為と認定される可能性があります。せいぜい2週間前後で開催すべきでしょう。 また、当該従業員を解雇したような案件では特に問題とはなりませんが、まだ在籍中の場合には、団体交渉を就業時間内に行うか、 就業時間外に行うか、就業時間内に行った場合、賃金をカットするか否かという問題もあります。 これも今後の団体交渉のルールとして定着する可能性がありますので、安易に組合の要求をのむのではなく、 合理性をきちんと吟味すべきです。団体交渉を拒否することは不当労働行為となりますが、団体交渉を就業時間内に行う法的義務はなく、 またその間の賃金を支払う義務もありません。ただし、時間外に行う場合には、おのずと夜間に行うこととなるのでしょうが、 深夜までエンドレスとなるケースもあるため、あまりお薦めできません。昼間の時間帯で時間を2時間程度に限って行うのが望ましいでしょう。 それ以上続けても、互いに疲弊するだけで建設的な議論にはなりません。
参加者の指定
団体交渉に参加する会社側のメンバーを誰にするかは事前に決めておく必要があります。 少なくとも議題とされている事項について事情を良く知り、かつその場で会社見解として正式回答をすることができる 人が参加しなければなりません。その他に社長が出席すべきかは議論の分かれるところです。 社長は最終決定権者なので不用意な発言はできませんし、「最後の砦」として出席を控えるべき、として一律に社長の 出席を「不要」と指導する弁護士もいます。 しかし、組合側からすれば社長が出席しないというだけで「不誠実極まりない」との評価を免れえません。 会社規模によっては、事情を良く知る担当者イコール社長ということもありますので、当職は、社長を出席させるか否かは お客様のご希望もうかがいながら、ケース・バイ・ケースで判断しています。 次に、組合側の出席者ですが、会社側の出席者と同程度の人数にするよう、回答書に記載しておくのが良いでしょう。 会議室に入りきらない人数で来られても困ります。もっとも、人数を制限する権限まではありませんので、 組合が会社側の人数の倍以上で来たとしても、それを理由に団体交渉を拒否することはできません。
団体交渉の戦い方
録音と議事録
団体交渉の席で録音をすべきかどうかも指導する弁護士によって見解が分かれるところです。 その場でメモを取れば録音は不要という見解もありますが、当職は録音をすべきと考えます。 録音をすることによって互いに不穏当な発言を慎むようにもなりますし(もちろん、まったく意に介さない組合もあります)、 なによりメモだけですと、そこにメモを取る人の主観が入りますので、客観的な「データ」にはなりません。 とはいえ、毎回2時間近くの団体交渉の記録を聞き返すのは大変なので、その場でメモを取りつつ、いざというときの 記録として残すため、録音も行うという方法を当事務所はお薦めしています。 なお、組合によっては、議事録を作成し、その議事録にサインを求めてくることがあります。 しかし、議事録に書かれていることがすべてとは限りませんし、組合に都合のよい解釈で書かれている場合もあります。 議事録にサインを求められた場合には、「議事録は互いに作成すればよい」と返答し、サインに応じる必要はありません。
弁護士を付けるべきか
組合は千差万別です。理性的な組合もあれば、ただわめき散らし、自分たちの要求のみを押し付けてくる組合もあります。 一概に「こうすれば勝てる」という必勝法があるわけではありません。 また、そもそも訴訟と違い団体交渉はあくまでも「話し合いの場」なので、 団体交渉で解決を図るなら会社側もそれなりの「譲歩」をする必要があります。自分の主張を押し通すだけでは話し合いはまとまりません。 どの辺が落とし所か、またそれはどのタイミングか、といった攻守・和戦の選択は、「センス」と「経験」がなければ上手くいきません。 そこで、経験豊富な労働問題の専門家に「舵取り」を委ねることを強くお薦めします。 もっとも、団体交渉への同席だけで考えれば必ずしも弁護士を使う必要はありません。 信頼できる社労士を顧問にお持ちであれば、その先生に一任するのが良いでしょう。 ただし、社労士は訴訟になった場合に代理人を務めることができません。 団体交渉で解決できず、訴訟にまで発展した場合に弁護士にバトンタッチすることになります。 その可能性を考えると、最初から弁護士を付けておいた方が、 組合に対しても「うちは訴訟になっても平気だぞ!」」という姿勢をアピールすることもでき、交渉を優位に進めることができる場合もあります。
弁護士+社労士の知識
当職は、弁護士資格を取得する前に、民間企業で人事労務担当を長年経験し、かつ、社会保険労務士試験にも1発合格しています。 弁護士資格取得後は、労働事件を専門とし、実際に数多の団体交渉へ同席し、様々な組合を見てきました。 「知識」と「経験」には自信があります。社労士は労働実務に精通していますが訴訟代理人はできない等、一定の制約があります。 弁護士は権限に制約はありませんが必ずしも労働実務に深い知見があるわけではありません。当職はそのどちらも兼ね備えております。